若手研究者を科学コミュニティに取り込もう

キャリアの浅い若手研究者(Early Career Researchers:ECR)は、科学コミュニティで重要な役割を担っています。確かにキャリアとしてはまだ浅く、経験も少ないかもしれませんが、彼らは科学コミュニティの将来を担っているのです。新たな発見を世界にもたらし、将来ノーベル賞を受賞する可能性を秘めている人材です。次世代の研究者を育成する研究アドバイザーにもなってくれるでしょう。しかし、現時点では自分たちは学術界に大きく貢献できていないと思い込んでいるかもしれません。英国のオープンアクセス誌eLifeに英米の科学コミュニティにおける若手研究者の影響力について行った調査結果が掲載されているので、ここに記されている若手研究者をうまく取り込む方法を紹介します。
若手研究者は自分たちを過小評価している?
科学研究の多くの部分は、若手研究者(ECR)の構成要員、つまり、研究者としての職に就いていない大学院生、ポスドク研究者、教員によって行われています。彼らは、新しい才能、スキル、アイデアに溢れていますが、査読のような学術研究における重要なプロセスに対してそれほど意見できることはありませんし、大学、資金提供機関、出版社、学会などでの重要な議論は、ベテラン研究者たちによって決められている傾向があります。将来の研究者として活躍する可能性のある若手研究者が、これから先の研究の在り方についてほとんど、あるいはまったく発言する機会を与えられていないとも言えるでしょう。このことが若手研究者たちに、自分たちは蚊帳の外に置かれている、取るに足らない存在だと思わせてしまうのかもしれません。
科学コミュニティが提供する機会と期待
科学コミュニティには、研究者のキャリアレベルに関係なく、研究者のネットワークとつながり、会議やカンファレンスに参加し、専門的な開発研究に関わるチャンスがあるので、若手研究者がもっと積極的に関わることができれば、彼らが得られるものが大きくなる一方で、コミュニティにとっても肯定的な効果が得られると期待できます。
- 科学コミュニティは、資金提供者や政府機関の政策協議に関わることがあります
- 科学コミュニティは、研究者のキャリア、所属する研究機関・団体、国を越えて研究者が交流する機会を提供しています
- 科学コミュニティとしては、該当分野において次世代の指導的立場になり得る人材を採用し、働き続けてもらいたいと考えています
- 既に若手研究者を指導的地位に登用したコミュニティの中には、そのことが若手研究者のキャリア向上だけでなく、最終的には該当分野における指導的役割を担う人材を確保することにつながっていることが示されています
科学コミュニティが若手研究者を取り込んで指導的地位に付けるメリット
科学コミュニティが若手研究者に指導的立場(リーダー)を任せることによって得られるメリットを挙げてみます。
- 研究経験の浅いジュニア研究者とベテランのシニア研究者間の交流(相互理解)を促進することができる
- コミュニティから外部に向けた働きかけを増やせる
- 若手研究者に関連する課題について新たな見識を得ることができる
- 組織・団体の生産性を高めることができる
コミュニティによって差はあるとしても、若手研究者に指導的立場を任せることによる影響は少なくないはずです。
若手研究者にとってのメリットは
では、反対に若手研究者にとってのメリットとは何でしょうか。以下は、若手研究者が科学コミュニティでリーダーとなることによって得られるメリットの例です。
- リーダーとしての経験を積むことができる
- 科学コミュニティでの業務と方針決定についての知識を得ることができる
- 将来役立つ可能性のあるネットワーク(人脈)を作ることができる
- 助成金や原稿の評価・見直の経験を積むことができる
科学コミュニティに若手研究者をどうやって取り込むか
双方にメリットがあるにも関わらず、若手研究者をどうやって取り込めばいいのか具体的にはよく分かっていないということもあるでしょう。若手研究者を取り込むことに成功するために必要なことをいくつか挙げてみます。
- 若手研究者をコミュニティの委員会メンバーとして登用し、役割について教え込む
- 登用した若手研究者に委員会の他のシニアメンバーをメンターとして付ける
- 若手研究者には、さまざまな活動に関与させる
- 委員会のメンバーとなることで若手研究者の研究時間を奪うことになるのであれば、その問題を取り上げてうまく対処することが必要
- 他の委員が担っているのと同等の責任を若手研究者にも与える
- 若手研究者には彼らの役割と体験したことについて定期的なフィードバックを出してもらう
前述のeLifeの論文には、若手研究者の取り込みを成功させるための推奨事項が示されているので、参考にできます。科学コミュニティに若手研究者を取り込み、責任ある立場を任せることは、将来的の研究活動にもよい効果が得られるので、若手研究者の活躍の場が一層広がることを期待しています。